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万博レポート|ヨルダンの「時空」を体感。三戸高校の発表が世界に届きました。

2025.10.29

はじめに——自己紹介と、万博に行けた理由

三戸高校魅力化コーディネーターのむらたしゅうこです。日ごろは、生徒の学びと地域をつなぐ活動をしています。

今回、私が三戸高校の生徒と大阪・関西万博へ行けたのは、大阪・関西万博で政府が支援する「国際交流プログラム」の推進自治体に三戸町が選定されたからです。交流相手は中東・ヨルダン。このプログラムには全国で約50自治体が参加しており、青森県内では三戸町が唯一選ばれました。
その取り組みの一環として、三戸高校の生徒がヨルダン館でPRポスターを用いた発表を行う機会をいただき、私も同行しました。

ヨルダン館でわかったこと——砂漠だけではありません

入館してすぐ、「砂漠の国」という思い込みがやわらぎました。ヨルダンには春夏秋冬があり、いろいろな作物が育つそうです。案内の方(シファさん)から、地形や気候が暮らしを支えている話を丁寧に教えていただき、遠い国がぐっと近く感じられました。

ペトラ遺跡は谷に隠れるように位置しています。この地形が昔の交易の道を守り、「スパイスの道」が長く続いたと聞きました。地形と歴史はつながっているのだと実感しました。

伝統的な住居の写真からは、助け合う温かさが伝わってきました。どこか日本の昔の家族観にも似ていて、親しみを覚えます。さらに、イスラム教とキリスト教が共存する姿勢に、互いを尊重することの大切さを教わりました。平和の土台は、日々の尊重の積み重ねなのだと思います。

忘れられないのが火打ち石の“打楽器”です。色や形、手ざわりの違う石を軽く叩くと、それぞれ違う音で応えます。「石? 金属?」と不思議さが増すばかりで、音だけが確かに耳に残りました。もう一度入り直して、ゆっくり確かめたくなる展示でした。

360度シアターでは、ヨルダンを「時空の王国」として紹介。足元の赤い砂(ヨルダンから運ばれた砂)がさらさらと流れ、まるで大きな砂時計の中にいるようでした。映像と手ざわりが重なり、「時」と「空間」を体で理解できた気がします。

「ヨルダン館の赤い砂。さらさらで、砂時計の中にいるようでした」

「火打ち石の“楽器”。石ごとに違う音がします」

オーストリア館——“未来はみんなで作る”を音楽で

オーストリア館は、来場者が短いフレーズを選ぶとAIが音楽にしてくれる仕組みでした。知らない人同士の選択がひとつの曲になっていきます。ことばがなくても、音でつながる体験でした。
会場では自動演奏ピアノオーケストラ音源による協奏曲のデモもあり、音が空間を満たしていきました。「未来はみんなで作る」というメッセージが、耳と体にまっすぐ届きました。

「オーストリア館のピアノ演奏。ことばがなくても、音でつながります」

Dialogue Theater「いのちのあかし」——木が歌う建物

近代的なデザインの建物が多い会場の中で、ここだけは古い木材と大きなガラスが並んでいました。床は高床で風が通り、外にはひらけた庭、真ん中には大きなイチョウの木。季節や時間、人の行き来をやさしく受け止める「場のつくり」になっていると感じました。

この建物は、廃校になった校舎の木材を一度ばらし、一本一本に番号を付けてから、ここで組み直したそうです。まるで大きなパズルをもう一度完成させるように。だからこそ、材料そのものが昔の時間や人の記憶を運んでいるのだと実感でき、まずその事実に心を動かされました。

内部では、樹齢400年の杉板スピーカーになっていました。板に耳や頬、手のひらをそっと当てると、木肌から細かな振動が伝わってきます。音を耳だけで「聞く」のではなく、体で「触れて」確かめる体験です。この瞬間、空間全体が楽器になり、素材そのものが語り手になります。私たち来場者は、その物語に一緒に耳を澄ます仲間になるのだと思いました。

テーマの「対話」は、楽しい面少し苦しい面の両方があります。自分の歩んできた道と、目の前の他者の物語が触れ合うと、ときにちくりと刺さり、ときにやわらかく溶け合います。ここでは言葉の説明に頼りすぎず、静けさや間、手ざわりを通して、その両方を体に落とし込めるように作られていました。

胸の中にしまっていた未整理の思い出と、目の前で「鳴る木」が奏でる震えが、静かに共鳴し、音が消えたあともしばらく、その余韻が体に残りました。

生徒の発表——ポスターは“対話の入口”になりました

生徒は自分たちで作ったPRポスターを使い、ヨルダン館でお客さまに三戸の魅力を伝えました。校内練習では不安もありましたが、アドバイスを素直に取り入れて言い方・見せ方を調整しました。

本番は3組とも堂々
・ 導入のひと言で興味をひく
・  声の高さ・速さを整える
視線を前列・後列にていねいに配る
・ 短い質問でお客さんを巻きこむ

会場で必要な工夫をその場で身につけていく様子を間近で見ました。今回の経験で、ポスター作品は“作って終わり”ではなく、“使って伝える”ところまでが表現だと、全員で確かめることができました。

次の目標は、
① 導入をもっと分かりやすくする
想定Q&Aを価値観の部分まで考える
参加の仕掛け(手挙げ・ミニ質問・QRコード など)を1つ入れる
の3点です。

生徒に生まれた変化(国際交流プログラムの手応え)

・ 異文化を文脈で見る力:単純なイメージで決めつけず、背景から考える姿勢が育ちました。
・ 発信・対話・即興の力:相手に合わせて分かりやすく伝え、反応に応じて対応できます。
・ 自己省察:対話の「楽しさ」と「むずかしさ」を体で感じ、自分を見つめ直すきっかけになりました。
・ チーム連携:役割・動線・時間を現場で最適化する力が上がりました。

ローカル×グローバル:三戸で生まれた成果物を世界の場で再編集して語る経験が、「地元の物語を世界語にする」第一歩になりました。

音楽の視点で——三戸でもできること

今回の体験で、音はことばの壁を越えるとあらためて感じました。素材そのもの(木や石)が鳴って語るという発見も大きかったです。三戸でも次のような取り組みができるかも?と考えてみました。

・ 「まちの組曲」:畑の風、川のせせらぎ、商店街の足音、学校のチャイムなど、身近な音を集めて1曲にする。
・ 「木が歌う」教室:地域の木材で簡単な共鳴板を作り、体で音を聴く体験をする。
・ オープン・リズム:太鼓などの打楽器を並べ、初めての人同士でも一曲だけ一緒に叩く時間をつくる

どれも大がかりな設備は不要です。音は年齢を問わず、誰にでも届きます。

まとめ

万博は、遠い世界を近くに、むずかしいテーマをやさしくしてくれる場所でした。ヨルダン館で学んだ暮らしと共存の知恵、生徒の堂々とした発表、そして音が人を結ぶ力。三戸でも、作って・使って・伝えて、みんなで未来を少しずつ形にしていきます。

むらた しゅうこ

むらた しゅうこ

「挑戦する10代」と「挑戦する大人」が出会う瞬間を、三戸から増やしていきます。